経営者としての人事・労務リスクマネジメント
2008年4月21日 尾崎 洋二
もし仮に読者の皆さんが、創業経営者として、10名以上の社員から連判状を突きつけられて団体交渉を迫られたら、どうしますか?
私の尊敬する経営者である稲盛 和夫 氏はこの時の模様を下記の著書で述べています。
そのときの模様を、
「団体交渉における書状には”将来にわたって、昇給は最低いくらにすること、ボーナスはいくら出す”という待遇保証を求める要求が連ねられていた。 中略 会社を始めてまだ2年しか経っておらず、私自身会社の前途に対して確信らしいものを持っていなかった。それなのに、当座だけ彼らを引きとめるために、”今はこういう労働条件を約束”しようと言えば嘘になる。私には、できる自信も見込みもないことを保証することはできなかった」と氏はこの著書の中で述べている。
結局話し合いは、会社では埒が明かず、氏の自宅で夜中まで、それでも解決できず、3日3晩続いた。
最終的に「だますかだまさないかは、いくら私が言っても証明のしようがない。私は自分だけが経営者としてうまくいけばいいという考えは毛頭持っていない。入社した皆さんが心から良かったと思う企業にしたい。それが嘘か真か、だまされたつもりでついて来てみたらどうだ。私は命を賭してもこの会社を守っていく。もし私がいいかげんな経営をし、私利私欲のために働くようなことがあったら、私を殺してもいい」
と氏は最後に宣言して終結し、彼らは団交要求を撤回し、会社に残ってくれ、以前にも増して骨を惜しまず働いてくれるようになった、と著書に書いてある。
私はこの章を読んで、「 経営者としての人事・労務リスクマネジメント」の要点は正に「経営者の人間哲学=確固たる心の有り様」にあるのだと思いました。
この本の感想文を下記に記載します。
お時間ありましたら眺めてみてください。 多分2~3分で読めるかと思います。
「敬天愛人」感想文 尾崎 洋二
稲盛 和夫 氏 著
PHP文庫 ¥438
1559年に京セラを創業し、僅か38年間で著者が携わる京セラを中心とした企業グループの売上合計を約1兆7000億円にされた、稲盛氏の「企業哲学」入門書である。
著者が「結びにかえて」の終章で「この本で述べている私の考え方を追体験することは誰にもできない。しかし、読んでいただければお分かりのように、それは人間をベースにした普遍性を持ったものである」と述べてある。
まさに一読者である平凡な私でも「何かあるたびに、人間として何が正しいかという原点に立ち返ってものごとを考え、その原則に従って行動しさええすれば」なんとか道は拓けてくるのではないかと思った。
ちいさな一支店営業の責任者である私には著者の「経営というものは、経営者の人格の投影でしかあり得ない」という言葉に接したとき、私自身の人格の重みのなさにびっくりもした。
著者が最初の勤務先を退職したとき、自然と部下や後輩に留まらず、先輩や上司までもが、「ついていきたい」と言い出した、と述べているところでは、まさしくふだんからの滲み出る「人徳」が、イザ!というときの勝負になるのだと痛感した。
京セラ設立から2年目に社員から団体交渉を求められたとき、著者は、会社の将来について「夢中で働けば、何とか食べていけるだろう」という程度にしか考えていなかったが、この交渉事件で著者は「経営者自身が明日のことも分らない。それにもかかわらず、従業員は何年先までの待遇改善を期待し、家族まで含めた将来にわたる保証を会社に求めている」ことを初めて知る。
そしてこの経験から「経営とは経営者が持てる全能力を傾けて、従業員が幸福になれるように最善を尽くすことであり、経営者の私心を離れた大儀名分を企業は持たなくてはならない」という教訓を著者は得る。
この結果「1:全従業員の物心両面の幸福を追求する。2:人類、社会の進歩発展に貢献する」という京セラの経営理念が生まれた。
著者は自身の企業の驚異的な発展を、業界から技術力とか時流に乗ったからと言われるが、それを否定して「あくまでもこの経営理念に従い、人の心(利他の心)をベースに経営を進めてきた結果」と言い切る。
それでは「心」とは何だろうか?
著者によれば、
1
「成功をおさめていく人というのは、強い願望と同時に美しく明るい、一点の曇りもない純粋な心を持っている人である」
2
「心に後ろめたい”濁り”や”穢れ”があると目標を達成することは決してできない」
3
「宇宙にはあらゆるものを生成発展させる摂理があり、それにかなった考え方や生き方をすれば、必ずうまくいく」
(私はこの部分を”宇宙の法則と自分の心”を常に一致させていけばうまくいくと解釈)
4
「宇宙の摂理と同調する考え方とは何か。それは、あらゆるものを受け入れ、発展させようとする、キリスト教でいう”愛”、仏教で教える”慈悲”であり、言い換えれば、優しく思いやりに満ちた心なのである」
5
「この思いやりや愛というものは”利他”の心とも言い換えることができる。利他の心とは、自分だけの利益を考えるのではなく、自己犠牲を払ってでも、相手に尽くそうという心であり、人間として最も美しい心である。私はビジネスの世界においても、この心が一番大切であると思っている」
6
「歴史をひもとくならば、人の心が偉大なことを成し遂げた事例は枚挙にいとまがない。たとえば、米国の建国や日本の明治維新は、何も持たない人々の志と団結心が成し遂げたものである。また逆に、人心の荒廃が組織や集団の崩壊を招く遠因となった事例を私たちは数多く知っている」
7
「うつろいやすく不確かなものも人の心なら、ひとたび互いが信じ合い通じ合えば、限りなく強固で信頼に足るもの、それも人の心なのである」
経営者がとことんまで「心」を純化して実践見本を示す。リーダーがそれをとことんまで真似て従っていく、そして合理的・科学的経営手法(リスクマネジメント)があれば、経営の成功は確実になっていくという、見本例を著者はこの本で述べている。
「心こそすべて」という言葉は良く耳にしますが、この言葉を経営において見事なまでに実践しぬかれた著書について、私は著者のことを「生き仏」のように感じます。まさにこの本は「人間をベースにした普遍性」をもったものです。
数十年後、数百年後、このような著者とほぼ同時代に生きて、著者から「人間の心」と「経営の心」を学べることの幸運さを多分後世の人々が羨ましがる時代がくるかと思いますが、このありがたさを、謙虚に真摯に受け止め、少しでも実践し、著者から学んだことを、私自身の実践例を通して仕事仲間に伝えなければと、思いました。