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M&Aにおけるリスクマネジメント

2008年5月16日 尾崎 洋二


M&A(Mergers and Acquisitions:合併と買収:の略、エムアン
ドエー、エムエー)とは企業の合併・買収の総称。

 M&Aは新規事業や市場への参入、企業グループの再編、業務提携、
経営が不振な企業の救済などを目的として実施される。
 広義には包括的な業務提携やOEM提携なども含まれる。

 以上が M&A の意味ですが、私は M&A に関連する報道を見
聞きするたびに、買収される側の会社スタッフの気持ちを真っ先
に考えてしまいます。

 銀行業界の再編成のたびに旧銀行名を残して、長い新銀行名に
なっていくのも多分買収される側の会社の社員たちへの思いがあ
るのでは?と私は考えています。

 吉野家ホールディング社長の安部 修仁 氏は M&A につい
て、日経ビジネス5月12日号で、以下のようにいっています。

「これまで独立路線で事業を展開していた買収先にとっては、
吉野家HDから新しい資本や人材が投入されることに、アレルギー
を感じるかもしれない。

 吉野家も1980年の会社更生法適用申請で、旧セゾングルー
プの支援を仰いだときには、アレルギーがあった。

 しかし、これは一時の感情論に過ぎない。合理性と有効性を基
準にしていれば、共同作業で利害が一致し、感情のしこりが氷解
するときが必ずくる。

 『良いものは良い、悪いものは悪い』------。こう言い合える
『組織ワーク』が吉野家にはある。このマネジメント手法は、ほ
かの企業に移植できる有用な仕組みだと確信している。

 さらに、大げさかもしれないが、吉野家の理念を広く伝えて外
食産業界の地位向上に寄与するという使命感もある。

 こう考えていくと敵対買収は、吉野家HDにとっては決して友好
な手段ではない。

 相手が受け入れてくれないのであれば、そもそも吉野家の理念
が発揮できず、業績の回復も難しいと考えるからだ。

 中略

 買収する側が『資本の論理』という説明の仕方しかできないケ
ースは独善的と感じてしまう。私の目にはどうしても目先の利益
や株価という目的のために手段を行使したというふうにしか見え
ないからだ」

 この安部氏の言葉は M&A におけるリスクマネジメントを考え
る意味でとても重要です。

 京セラが1990年に従業員が1万人近くいる米国の有力な電
子部品メーカー、AVX 社を買収したとき、稲盛 和夫 氏の考
え方を「成功への情熱」(稲盛氏著・PHP文庫)で知ったとき、私
は異国とのM&A においても、稲盛氏の考え方が通じることを知っ
て衝撃を受けました。M&A におけるリスクマネジメントを考えて
みたい方にこの本はお勧めです。

 この著書で稲盛氏曰く、
「通常、日本企業が海外の企業を買収すると、本社から経営陣を
送り込み、管理しようとする。

 しかし、私は企業合併は結婚のようなものであり、心から信頼
できる関係を築き上げることがもっとも大事だと考えていた。

 だから買収が成立しても、経営陣はそのままにし、京セラの考
え方をできるだけ早く先方に伝え、共有できるようになりたいと
思った。

 米国は個人主義の徹底した社会であり、個人的な利益の追求が
優先される社会である。そのような米国社会において確固た地位
を築いた同社の幹部に、私の『自分の才能は私物化してはならな
い』『私心があってはならない』『働く意義や目的がもっとも重
要だ』『思いやりを持つことこそ大切である』というような経営
哲学を受け入れてもらうことは容易なことではない、逆に反感を
買うだけだ、というのが当社の米国法人幹部の意見であった。

 そうであっても、京セラの経営哲学を理解してもらい、受け入
れてもらわなくては信頼関係は構築できない。そう思い、私が講
師となって、京セラの経営哲学についての同社幹部社員との勉強
会を始めることにした。

 中略

 この勉強会に資料として使った『心を高める、経営を伸ばす』
の英訳に、私の質疑応答を加え、米国人にも理解されやすいよう
に編集されたものが『「成功への情熱」』という本にまとめられ、
米国にて出版された。本書はその日本語版である。

 この勉強会の結果何が起こったのか。私たちは共通の経営哲学
を持つ同志として信頼し合い、尊敬し合えるようになった。

 そして、AVX 社の実績も買収前とは比較にならないほど良くな
り、売上はこの6年間で約3倍に、利益は約6倍に増え、昨年夏
にはニューヨーク証券取引所に再上場するまでになった」

 本書序文において稲盛氏は
「時代がどのように変わろうとも人間の本質は変わらない。必要
なことは『人間とは何か』『人生とはいかにあるべきか』『人間
として何が正しいのか』など、人間として、もっとも基本的な倫
理、哲学を真剣に探求することであり、その中で自己の存在意義
を確認し、自らの人生の指針としての哲学を確立るすことである」
と述べています。

 M&A といえども、基本は人間のなせる経済的行為です。このと
きこそ、M&A に関わる経営者の「人間哲学」が問われるのではな
いでしょうか。

 また安部氏や稲盛氏のような確固たる「人間哲学」が、M&A に
おけるリスクマネジメントを考える上でのキーワードになるかと思います。