訳者 岡 真知子氏 あとがき
「9・11」2001年。その日、ビルにいて事件に巻き込まれた人達は、何を目撃し、何を考え、どいういう行動をとっただろう?
世界貿易センタービルから2千人あまりの社員を無事に避難させた警備主任もいた。 彼は人々を避難させた後、妻に電話し
て感謝の気持ちを伝え、別れを告げて、ふたたび危険なビルの中に戻っていったという。
九死に一生を得てなんとかビルから脱出した人もいれば、不幸にして命を落とした人々もいる。生死を分けたのは何だった
のか?
幸運にも生き残った人たちは、どのようにして惨事を免れたのだろう?あの衝撃的事件から数年の時を経て、生存者たち
はどういう思いで日々を送っているのだろう。
2005年8月ハリケ-ン「カトリーナ」がニュ-オリオンズに襲来した時、市長による避難命令が出されていたにもかかわらず、そこにとどま
って死亡した住民がいたのはなぜなのか?
1982年1月13日、エア・フロリダ旅客機が厳寒のポトマック川に墜落した時、身の危険を冒して凍りつくほど冷たい川に飛び込ん
だ板金工がいた。
ヘリコプターも飛び立てないほどの悪天候の中、絶望の淵に沈みかけていた墜落機の乗客達は、彼の姿を目にして一縷の望
みを抱いた。
凍え死にそうな思いまでして、なぜその板金工は彼らを救おうとしたのだろう?見ず知らずの他人のために、自らの命を賭
してまで、人はなぜこうした行動がとれるのだろう?
著者は、こうしたさまざまな惨事をくぐり抜けて生き延びた人達を証人として訪ね、長時間にわたって(なかには3年、あるい
は5年に及んだ例もある)インタビューし、一人ひとりの言葉に真摯に耳を傾けた。
著者は公式報告書や関連書籍やメディアの記事など、広範囲な資料を確かめて客観性を保持するべく努めている。しかも信
頼できる情報を得るために、インタビューには一切謝礼を払わないというジャーナリストとしての姿勢を貫いている。
一方で、本書は一種のサバイバルガイドにもなっている。惨事に直面した時、私達の脳はどう働くのかを解明し、生き延びる為
に何をしなければならないのかについて具体的にアドバイスしてくれる。
脳を鍛える方法や恐怖を抑制するための呼吸法などにも触れていて実際的でもある。
惨事に遭遇し、恐怖に直面した人達び反応や行動は、私達の予想を裏切る。「現実はもっと興味深く、希望に満ちている」の
である。
極度の恐怖を体験した生存者達の語りといい、極限状況において崇高な行動をとることができる人間の感動的な実話といい、
人間の奥深さを再認識させてくれる感銘深い書となっている。
本書の原題「The Unthinkable 」は、「想像もできないほどの惨事」を意味すると同時に、人間には、はかり知れないほど素晴
らしい存在である、という意味も含めているのではないだろうか。